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2013/03/21 (Thu) クラウド アトラス(映画館で鑑賞)

クラウド アトラス

原題   Cloud Atlas
公開   2012年(アメリカ)
上映時間 172分

監督   ラナ・ウォシャウスキー/トム・ティクヴァ/アンディ・ウォシャウスキー
製作   グラント・ヒル/シュテファン・アルント
     ラナ・ウォシャウスキー/トム・ティクヴァ/アンディ・ウォシャウスキー
脚本   ラナ・ウォシャウスキー/トム・ティクヴァ/アンディ・ウォシャウスキー
原作   デイヴィッド・ミッチェル『クラウド・アトラス(Cloud Atlas)』

出演   ジム・スタージェス  ···アダム・ユーイング
     ベン・ウィショー   ···ロバート・フロビシャー
     ハル・ベリー     ···ルイサ・レイ
     ジム・ブロードベント ···ティモシー・カベンディッシュ
     ペ・ドゥナ      ···ソンミ451
     トム・ハンクス    ···ザックリー
     (各時代の主人公のみ記載)


あらすじ
 ある夜、星空の下で老人が自らの半生を語りだす。しかし彼は、様々な時代と場所に生きる人々の物語がつながっていることを知る由もなかった。
 1849年。弁護士のアダム・ユーイングは、義父の依頼で奴隷売買の契約を結ぶため南太平洋の島を訪れるが、帰りの船の中で病に冒される。そして彼は病床の中、密航者のオトゥアと出会う。
 1936年。作曲家を志すロバート・フロビシャーは自分を勘当した父親を見返すために、著名な作曲家エアズに師事をする。そんなある日、ロバートは幻の名曲「クラウド アトラス 六重奏」を生み出すのだが…。
 1973年。ジャーナリストのルイサ・レイは、ある原子力発電所の報告書から企業の隠蔽を暴きだそうとする。しかし協力者が次々と消され、彼女の命を狙う者がいることに気づく。
 2012年。編集者のカベンディッシュの担当する作家ダーモットが書評家を殺したことで、彼の著作はベストセラーに。しかし印税の分配を巡り、カベンディッシュダーモットの弟たちから脅迫される。そこで彼は兄に助けを求めるが…。
 2144年。ネオソウルのレストランで給仕をする、クローンのソンミ451。あるとき彼女は革命家のヘジュ・チャンに助けられ、抑圧された生活から抜け出した。彼から真実を伝えられたソンミは反政府運動に身を投じることを決意する。
 2321年。文明崩壊後の地球でヤギ飼いとして生計を建てるザックリーは、物々交換にきたメロニムと出会う。初めは彼女に心を許さないザックリーだったが、彼女と同行するうちに地球の真実を知り…。





評価:3.5点(5点中)


レビュー
 原作はかなり有名らしいが、私は手に取ったことが無い。この手の映画は原作が比重を占めることが多いが、これはあくまで映画のみのレビューである。

 さて初めこの映画の存在を聞いたときは正直不安だった。なにしろ6つの違う時代の話が交差するというのだから、複雑きわまりない。上手く処理しないと、観客が混乱して話についていけなくなることすらある。しかもそれぞれの話を成立させるためには時間も必要だ。逆に言うと、ほぼ3時間の上映時間の中、見ている側が飽きるようなことがあってはならない。非常に多大な努力が必要である。

 しかし、それらの点ではこの映画は見事にクリアしていると言える。少なくとも私は3時間の間集中できたし、ストーリーも上手くまとめられていたから混乱もしなかった。
 事実、脚本は良くできていると思う。「すべての罪が、あらゆる善意が、未来を作る」という輪廻転生的なテーマを描くために、必要最小限の情報だけをピックアップし、筋道立てて整理されている。ある時代に登場した人や物が別の時代をつなげるものとして再度現れるのは、なかなか上手い見せ方だ。テンポよく時代も切り替わるから、この映画に中だるみは存在しない。

 しかしその「良い部分」がそのまま「悪い部分」になっているのも事実だ。まず、ピックアップされた情報があまりにも絞られているから、それぞれの時代が(当然だが)非常に薄っぺらい。それにあまりにもテンポが良すぎるせいで、ある時代の登場人物に感情移入し始めた所で、次の時代に移ってしまう。全体的なテーマは理解できても、個々の登場人物の存在が軽ければ何の意味も無い。

 もちろん、それぞれの時代の出来にも違いがある。私のお気に入りは1936年、2012年、2144年だ。一番は1936年だが、この時代は並のSF映画とは思えないほど繊細だ。主人公のロバートはゲイであることを隠し、作曲に励むのだが、ベン・ウィショーはそんな彼に完璧になり切っている。自尊心が強く自分に才能があることを信じて疑わないが、恋人のことはひと時も忘れない。彼が自分のアイデンティティに苦しむ様子や恋人を思い焦がれる様子に人間味あり、登場人物の中でも最も共感できる存在だ。

 2012年は他と比べてかなり軽いタッチで描かれている。意地悪な兄に騙されて虐待老人ホームにぶち込まれたカベンディッシュの逃亡劇が主軸なのだが、ジム・ブロードベントは自分の持ち味を良く生かしている。口が悪く、だらしない性格なのに、どこか憎めない。ほとんどの時代が重苦しいトーンだから、彼の存在は唯一と言っても良い心安らぐものである。
 
 2144年は映画全体のテーマにも大きく関わってくる。ストーリー展開も他とは違い(厳密に言うと2321年も一緒だが)回想形式となっている。初めのうちソンミ451は外の世界を知らないが、同じくクローンのユナ939と映画を見たことで、次第に日々の生活に疑問を抱き始める。なぜ複製種は純血種(クローンでない人)に従事しなければならないのか、契約満了後はどうなるのか。こういった重苦しいテーマがSFらしい映像と共に語られていく。
 その後ヘジュと出会ったことで、知識をつけたソンミは革命のシンボルとなる。しかし、できればこの心の移り変わりを丁寧に描いて欲しかった。というのも、あの衝撃を見せつけられて「反政府運動を展開せねば」となるソンミの気持ちは理解できるが、あれでは周りの革命家にまんまとのせられたように見えなくもない。ソンミがクローンとして植え付けられた意識ではなく、自らの意志で決断したことの描写が必要だったのでは。
 そうは言うもののソンミ451を演じたペ・ドゥナは素晴らしい。彼女とヘジュの関係こそが「輪廻転生」に最も即しているし、何より“愛”のために革命に身を投じたという彼女の眼差しは、揺るがない決意で形作られている。

 その他の時代も悪くはないが特筆すべき点も無い。1849年はそもそもストーリー的にも比重が置かれていない。1973年はその時代らしい社会問題を取り扱っているが、表面をサラッとなぞるだけで薄っぺらいのには変わりない。何より悪いのが主役のハル・ベリー。あまりにも70年代っぽくなくて、過剰な「ウーマン・リブ」的女性像が鼻につく。台詞をただ読んでいるかのようなシーンもあり、とてもオスカー女優とは思えない(ただ、後半に登場する逃亡劇は一応70年代アクションを意識していたが)。でも一番の問題は2321年。この時代が一番重要なはずなのに、真実を明かすまでのくだりが早すぎて何の感傷もない。トム・ハンクスも悪役を演じていた時代では(オーバーだが)良かったのに、この時代はただの一つの駒のように動いている(ハル・ベリーは言わずもがな)。彼の狂気の化身オールド・ジョージーもあまりにもステレオタイプな描写で煩わしい。

 そして全編を通して問題となっているのが、特殊メイク。当然様々な人物を演じるためには必須となるが、そのほとんどは上手くいっていない。韓国人のペ・ドゥナが西欧人を演じ、ハル・ベリーがユダヤ人を演じる。申し訳ないが、あまりにも似合っていなくて不自然だ。だが最も酷いのは2144年のネオソウルの住民だろう。どいつもこいつも西欧人の考えるアジア人らしく「つり目で平たい顔」だ。はっきり言ってアジア人というより火星人に近い容貌なのだが。
 それとは反対に大げさな特殊メイクでも上手くいっている人もいる。ベストは驚くことにヒューゴ・ウィーヴィングの女装だ。彼は2012年で老人を虐待する看護師を演じているのだが、これがなかなかゴツくて怖いのだ。普段とは違うコミカルな要素と彼の演技力が相まって、1973年で彼が演じるヒットマンの数倍良い。

 こうして見ると、「輪廻転生」を表現するために無理に同じ役者を使わなくても良かったのではないだろうか。そもそも各時代の主人公には共通して「彗星型の痣」があるわけだし、各々のキャラクターの共通性もにおわせるだけで良かったのではと思う。
 心に残るシーンはそれなりにあった。だが「クラウド・アトラス」という本の映画化としては、ベストな形とは言えない。むしろ壮大な物語をここまでまとめあげたことだけでも評価に値する。

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2013/03/21 (Thu) ダークホース リア獣エイブの恋(映画館で鑑賞)

ダークホース リア獣エイブの恋

原題   Dark Horse
公開   2011年(アメリカ)
上映時間 84分

監督   トッド・ソロンズ
製作   テッド・ホープ/デリック・ツァン
脚本   トッド・ソロンズ

出演   ジョーダン・ゲルバー    ···エイブ
     セルマ・ブレア       ···ミランダ
     クリストファー・ウォーケン ···ジャッキー


あらすじ
 父親が経営する会社で働く30代の独身男エイブはマザコンで、フィギュア収集が趣味のオタク。そんなエイブが、友人の結婚式で出会った女性ミランダに一目ぼれし、猛烈なアタックを開始。念願かなって付きあうことになるが、ミランダはある重要な秘密を隠していた。不安にかられたエイブは次第に妄想に襲われ、現実との境界線を見失っていく。





評価:4点(5点中)


レビュー
 予告編だけ見ると、「ダメ男の人生がある日を境に良くなっていくが、今までの行いが仇となって重大なミスを犯すものの、最後は自らの過ちに気づきやり直す。」というストーリーに思うかもしれない。というより書いてて思ったのだが、この予想は“ストーリーの展開”という意味では正解だ。だが監督の名前を良く見てほしい。“あの”トッド・ソロンズだ。何とも遣り切れない気分になること間違いなしである。

 主人公のエイブは感情移入の余地が無い真性のダメ男ではない。なぜ自分が今のような状況に陥ったのか薄々気づいているが、今更自分ではどうしようもなくなっているのだ。前半部分では彼のそんな「ダメな部分」をコミカルに描いていく。ここら辺の笑いのセンスはまあまあといった所だろう。

 だが開始直後から登場する生気のない女ミランダの存在が、物語にソロンズ特有の重苦しいエッセンスを加えている。彼女がどうしたいのか、エイブにも観客にも分からない。この謎めいた要素が前半部分のミソなのだが、正直言って前半部分はこれだけで保っているに等しい。全体が持つけだるい雰囲気があまりにも強くて時折いらつきを覚えるほどだ。

 だがほんの少し我慢して、ミランダが自身の秘密を明かせばソロンズ・ワールドの始まりである。実を言うと彼女の秘密は常軌を逸したものではない。非常に稀だが、誰にでもあり得る。しかし何の危機感も無く、他人から気を使われて成長し続けたエイブは初めて人生の危機と言えるものに直面する。現実なのか夢なのか、まったくシームレスにつながれるから訳が分からなくなってくる。この日常生活に差し込まれた狂気のバランスが非常に見事で、よくあるコメディ映画が、いつのまにか人間のエゴイズムをえぐり出す「イヤな映画」に変貌している。(と言いつつ、私はその「イヤな」部分が素晴らしいと思ったが)

 ここまでの独特な空気感を作り出せたのは役者たちの絶妙な演技のおかげだ。誰もが初めは大げさなキャラクターなのに、次第に人間味を帯びていく様は酷くリアルだ。クリストファー・ウォーケンやミア・ファローといった重鎮たちは文句無しだ。2人はエイブの両親を演じるのだが、父親のジャッキーは愛しているが故に息子に厳しく接しようとする。母親は反対にエイブにどこまでも甘く、30代半ばを過ぎた息子と今でも仲良くバックギャモンをしている。だがどちらの顔にも疲れが見て取れる。誰もがエイブのために動いているのに、エイブは変わろうとしないからだ。
 ジャッキーの会社で働くマリーは、“エイブの妄想では”二面性がある。この正反対の「現実」と「妄想」のマリーをドナ・マーフィが好演。なぜ彼女がエイブをそこまで気にかけるのか具体的には分からないが、そこに説得力を与えたのは彼女だろう。
 しかしミランダを演じたセルマ・ブレアは最初から最後まで陰気くさいしゃべり方ばかりだ。こっちまで気が滅入る。元カレとの関係も消化不良だし、そもそも「エイブのことが好きじゃない」というより「何も考えていない」ように見える。

 しかし何と言ってもエイブ役のジョーダン・ゲルバーがベストだ。どこまでも自己中心的で救いようの無い男なのに、嫌悪感というより哀れみを感じさせる。この境界線ギリギリの演技がユーモアとアイロニーのスレスレを行くこの映画に直結しているのだ。
 だから終盤で迎える彼の結末(本当に急展開)はあまりにも悲しい。彼は多くの人に愛されていたのに、その事実に気づくのがあまりにも遅すぎた。こんなに皮肉的な(そして愛情に満ちた)シーンはお目にかかれない。

 トッド・ソロンズにしては甘めの展開ではないだろうか。だがここで終わらせないのがソロンズ流だ。エンディングでは本当に皮肉な結末が待っている。エイブが居ようと居まいと、何も変わりはしない。確かに彼は愛されてはいた。だが誰もが知る通り、誰からも必要とされていなかったのだ。

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2013/03/13 (Wed) フライト(映画館で鑑賞)

フライト

原題   Flight
公開   2012年(アメリカ)
上映時間 139分

監督   ロバート・ゼメキス
製作   ローリー・マクドナルド/ウォルター・F・パークス/
     ジャック・ラプケ/スティーヴ・スターキー/ロバート・ゼメキス
脚本   ジョン・ゲイティンズ

出演   デンゼル・ワシントン ···ウィップ・ウィトカー
     ケリー・ライリー   ···ニコール・マッゲン
     ドン・チードル    ···ヒュー・ラング


あらすじ
 フロリダ州オーランド発、アトランタ行きの旅客機が飛行中に原因不明のトラブルに見舞われ、高度3万フィートから急降下を始める。機長のウィトカーはとっさの判断で奇跡的な緊急着陸に成功。多くの人命を救い、一夜にして国民的英雄となる。しかし、ウィトカーの血液中からアルコールが検出されたことから、ある疑惑が浮上し……。





評価:3.5点(5点中)


レビュー
 ここ数年、ロバート・ゼメキスはモーション・キャプチャにハマっていて、ろくに実写映画も撮っていなかった。しかもその技術の立役者とはいえ、本人が作った映画はどれも大ヒットには至らず…(リメイク版「イエロー・サブマリン」も没になるし)。だから久々の実写映画には当然期待がかかる。

 この映画は出だしの飛行機墜落シーンに尽きる。ウィトカー機長はコカインをキメた後に、機内でウォッカを2本空けるような男だ。悪天候のせいもあり、飛行機は不安感を残しつつ空港を出る。当然、観客はこの飛行機の結末を知っているわけだが、その「墜落」までの持っていき方は非常に上手い。
 いつ落ちるのか、焦らしに焦らしてその時を迎える。飛行機はいきなり前のめりになって、落ちていく。騒ぐ観客、取り乱す乗務員と副機長。それに対し、妙に冷静なウィトカーは瞬時に状況を把握、試行錯誤を繰り返したあげくに期待を“回転”させることにする。
 ここからは予告編を見た誰もが知っている。現実だったらあり得ないような事件を、見事なVFXと緊迫感のある会話で見事なリアリティを持たせている。こんなにハラハラするシーンはなかなかお目にかかれないが、残念ながらスリル満点なのはここまでなのだ。

 私が思うに、この映画の最大の欠点は不必要なシーンがあまりにも多すぎることだ。ウィトカーが病院で出会う終末医療患者との会話がその代表格だが、そのどれもこれもが意味有り気な所がさらに問題である。彼らとの会話を通じて、得体の知れないウィトカーの中身を描きたかったのかもしれないが、そんなことをしなくてもデンゼル・ワシントンの演技だけで十分だ。
 正直に言うと、ニコールもほとんど登場しない家族も不必要かもしれない。ニコールはウィトカーのアルコール依存症傾向を浮き彫りにするために、彼の家族はウィトカーの孤独感を表すためにいるわけだ。でもそれらはすべて他のシーンでも表されていることで、無意味にエピソードを増やしているだけに過ぎない。

 おそらくロバート・ゼメキスは脚本を見たとき、映画の全体像ではなく個々のシーンが思いついたのだろう。例えばウィトカー御用達の麻薬の売人ハーリンの登場シーン。彼がノシノシ登場するたびに、バックにはザ・ローリング・ストーンズの「悪魔を憐れむ歌」がかかる。面白いが、あまりにも狙いすぎているのだ。「フライト」のBGMはロック好きにはたまらないが、あまりにも「分かってる」使い方をしすぎて結果的にクサい演出と化している。
 だからそれぞれの場面の出来は光るものがあるのに、全体として見るとやや散漫な印象を拭えない。

 様々な欠点はあるが、この映画はあらゆる点でかなり優秀だ。そのほとんどは主演のデンゼル・ワシントンによるものが大きい。今回、彼はウィトカーという内面的に複雑な人物を演じるにあたり、かなり抑えめの演技を披露している。これが功を奏し、彼が抱えるジレンマを露にすることに成功した。ウィトカーは独善的で救いの無い人物なのに、観客は彼に共感し、英雄であるとさえ感じる。だからといって、まったくの善人かと言うとまったくそうではない。このドラマの中核の部分をワシントンは生み出したのだ。

 全体的に見ると「フライト」は良くできている。シリアスなシーンとユーモア溢れる場面のバランスが取れていて、(無駄ではあるが)様々なエピソードはどれも面白いので基本的に飽きることは無いだろう。繊細さには欠けるが、ロバート・ゼメキスの手腕は衰えていないらしい。

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2013/02/17 (Sun) マリーゴールド・ホテルで会いましょう(映画館で鑑賞)

マリーゴールド・ホテルで会いましょう

原題   The Best Exotic Marigold Hotel
公開   2012年(イギリス)
上映時間 124分

監督   ジョン・マッデン
製作   グレアム・ブロードベント/ピーター・チャーニン
脚本   オル・パーカー
原作   デボラ・モガー『マリーゴールド・ホテルで会いましょう(These Foolish Things)』

出演   ジュディ・デンチ    ···イヴリン・グリーンスレード
     ビル・ナイ       ···ダグラス・エインズリー
     ペネロープ・ウィルトン ···ジーン・エインズリー


あらすじ
「神秘の国インドの高級リゾートホテルで、穏やかで心地よい日々を」という謳い文句と美しいガイド写真にひかれて、イギリスからインドにやって来た未亡人イブリンら、それぞれの事情を抱えた男女7人。しかし、彼らを待ち受けていたのは「近いうちに豪華になる予定」というオンボロのホテルと刺激的すぎる異国の文化だった。





評価:3.5点(5点中)


レビュー
 この映画を見に行くと、劇場にいた観客のほとんどは定年退職済みのご老人ばかり。例外として何人か30代〜40代の女性の方もチラホラいたが、これでこの映画の内容が分かるというものだ。

 あらすじにある通り、何人かの年寄りが理由は違えど、インドの「高齢者向け長期滞在型リゾートホテル」に住むことになる、というのが大まかなプロットだ。そこに各々の様々なエピソードが添えられて、一つの映画を成している。

 まず映画の中の「インド」だが、雰囲気は悪くない。エキゾチックで魅力的な異国の地を見事に演出している。ただ、「イギリス人から見た」という文がつくが。
 ほとんどの演出は許容範囲だが、この映画にはこの手の映画にありがちな“植民的視点”が数多く盛り込まれている。挙げるとキリが無いが、例えばホテルの若き支配人ソニー・カプー(「スラムドッグ$ミリオネア」のデヴ・パテルが演じている)は典型的な「外国人の考えるインド人」だ。細かいことは気にせず、底抜けに陽気でわざとらしいインド訛りで話す。そして「現代的な彼女」はコールセンターで働いている。これをステレオタイプと言わずになんと言おう。(そもそもデヴ・パテルはイギリス生まれのイギリス育ちだ)
 
 インドを訪れる老人たちの中には、なかなかインドに馴染めない者もいるのだが、その「差別主義者」ぶりもわざとらしくて、次第に鼻につく。手術を受けにインドへ来たミュリエル(マギー・スミスが好演)は大のインド嫌い。有色人種の医者に「洗っても色は落ちない」と罵ったり、「イギリス人(もちろん全員がイギリス人)の医者を連れてこい」などとわめいたり。笑える雰囲気で描いているが、これは明らかにイギリス的な“やり過ぎ”ブラックジョークだ。インドを訪れた後に、ホテルで働く(カースト制における)不可触民のメイドに掃除の仕方をアドバイスするシーンも、いかにも「教化」といった印象を受ける(イヴリンのコールセンターでの「アドバイス」も同様)。そもそも彼女との交流を通して、大のインド嫌いだった人物が急に現地に慣れ親しむのも変な話だ。御都合主義としか思えない。
 その点、ダグラスの妻ジーンは理解できる。彼女は最後までインドに馴染むことができないのだが、彼女の存在は、優位主義的な既成概念を捨て去ることのできない人間のプライドをえぐり取る。

 だがそういった陳腐な演出に目をつむれば、この映画は非常に優れた大人(というか老人)のためのコメディ映画だ。笑える場面もあり(隣の初老のおばさんは「死亡ネタ」でバカウケしていた)、じんわりと感動できる場面もある。個々のエピソードをバランスよく盛り込み、過剰でも足りないわけでもなく、本当にぴったりだ。

 演じる役者陣も名優ばかりだから、誰が登場しても安心してみることができる。その中でも特に良いのが、トム・ウィルキンソンとビル・ナイだ。
 トム・ウィルキンソンはゲイの判事を繊細に、かつエモーショナルに演じた。彼がインドに来た理由は生き別れた大切な人を捜すためなのだが、その姿がなんとも言えぬ感情を生む。彼がどれほど相手のことを愛していたか、何も話さなくても伝わってくる。もちろん、彼が自分の心情を吐露する場面も素晴らしい出来だ。なぜ彼のエピソードが感動的なのかと言うと、人種間の垣根を越えた“愛情”という対等な関係だからだ。この映画で唯一の例外である。
 ビル・ナイはジーンの気弱な亭主ダグラスを演じる。彼とイヴリンの会話のシーンは(良い意味で)イギリス人らしい小気味良いウィットに包まれている。限りなく自然体で、イヴリンが好きだが妻のことを捨てることもできない草食系ジジイに成り切っている。
 当然この映画のメインは「インドでの異国体験」ではなく「老人たちの新たな始まり」だ。だからこういったラブロマンス的な要素が本来の主題である。一歩間違えば、ただ鼻につくだけの「老人の恋」もジョン・マッデンの手にかかれば一級品のものになる。なにしろ「恋におちたシェークスピア」の監督だ。こういったシーンはお手の物である。

 多くの人はこの映画を気に入るはずだ。嫌いなシーンも多いが、憎めない。一言で言うと、そんな映画だ。

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2013/02/14 (Thu) ルビー・スパークス(映画館で鑑賞)

ルビー・スパークス

原題   Ruby Sparks
公開   2012年(アメリカ)
上映時間 104分

監督   ジョナサン・デイトン/ヴァレリー・ファリス
製作   アルバート・バーガー/バート・リプトン/ロン・イェルザ
脚本   ゾーイ・カザン

出演   ポール・ダノ    ···カルヴィン・ウィアフィールズ
     ゾーイ・カザン   ···ルビー・スパークス
     クリス・メッシーナ ···ハリー


あらすじ
 19歳で天才作家として華々しくデビューしたものの、その後10年間にわたりスランプに陥っているカルヴィンは、夢で見た理想の女の子ルビー・スパークスを主人公に小説を書き始める。するとある日、目の前にルビーが現れ、カルヴィンと一緒に生活を始める。カルヴィンはルビーが自分の想像の産物であることを周囲に隠そうとするが…。





評価:3.5点(5点中)


レビュー
 レビューの前に少し余談を。今日がバレンタインデーであることは周知の事実であろう。私はよりにもよって、この2月14日に、1人で、ラブロマンス映画を見に行った。こんな私を笑ってくれ。笑ってくれないと辛いからさ…

( ´,_ゝ`)プッ

 とまあ、おふざけはこの程度にしといて。
 ジョナサン・デイトンとヴァレリー・ファリスはあの「リトリ・ミス・サンシャイン」の監督コンビである。その2人が作った映画なのだから、否が応でも期待してしまう。

 ストーリーにも興味が惹かれる。スランプに陥った元・天才作家が自分の創作した女の子に恋をする。しかもその子が実在してしまった。自分の思い通りに人を動かせたらどうなるのか、という上手く調理すれば最高の物に成り得る良い題材だ。
 だがこの「Aクラスの食材」をこの映画、というより脚本は上手く料理できたとは言いがたい。
 
 マインド・コントロール的な要素を暗くなりすぎずに描いた点は良かったと思う。楽観的な映画の雰囲気にぴったりだし、そもそも監督たちが得意とする「シリアスなのに、明るく振る舞う人々」には即している。それに終盤で見せるカルヴィンとルビーの喧嘩は今までの雰囲気とは一転、カルヴィンの異常性を最大限に引き出している。ものすごい早さでタイプライターを打ち、一瞬にやりと笑うその顔にはぞっとさせられる。それでいて、後悔の念も顔に浮かぶから、人間性が失われず、観客の共感を呼ぶ。

 そのカルヴィンをポール・ダノが好演している。次作が書けないと言ってセラピーに通い、ボビーというぬいぐるみを抱きしめる。女性に対する考え方もかなり独善的で、ルビーに言わせると「堅物」である。こんな引きこもりまがいを愛すべき人物として演じられるのは確かに彼しかいない。ひょろっとしていて、肌は青白く、完璧に役にフィットしている。登場人物の中でも、唯一リアルな感情が込められている。あえてタイプライターという昔ながらの方法で執筆に励む彼の姿は、狂人的でありながら「天才」と呼ばれ続けた者の苦悩も垣間見える。

 だが問題なのは、「ルビー・スパークス」その人だ。「女の経験ゼロ」のカルヴィンが作り出したからかもしれないが、彼女はびっくりするほど魅力的でない。いや、演じているゾーイ・カザンはチャーミングだし、けっして鼻につくというわけでもない。しかしカルヴィンが彼女にそこまで入れ込む理由が分からないのだ。ある意味では「カルヴィンの妄想の産物」としてのリアリティは保っているかもしれないが、彼女はこの映画のヒロインでもあるのだ。ハッとさせられる(先ほどの“喧嘩”のシーンなど)もあるが、ほとんどは薄っぺらいものしかない。

 この問題は彼女だけに始まったものではなく、他の登場人物にも言える。リアリティが無い、というか生活感が皆無なのだ。「空想の産物が実生活に登場する」という話を生かすには、“実生活”との落差が大事なのだ。どちらも創作物に見えるようでは、惹き付けるようなストーリーにはならない。

 とはいえ、全体として見るとこの映画は悪くない。むしろ良い方だ。主演の2人はそれぞれの役柄に忠実だし、インディペンデント系らしいカメラワークも嫌いじゃない。音楽の使い方をもう少し上手くすれば、忘れられないシーンもできたと思う(ゲームセンターの場面など)。要するに色々と惜しいのだ。

 その“惜しい”脚本にも実は完璧なシーンが一つある。それはラストなのだが、カルヴィンとルビーの会話が絶妙なのだ。詳しく言うつもりは無い。ルビーが何気なくする会話の一つ一つが二重の意味を持っているのだが、それが非常に巧みなのだ。カルヴィンの心情も手に取るように分かる。まさに理想的なエンディングと言えるだろう。

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