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2014/10/24 (Fri) その男、凶暴につき

その男、凶暴につき


英題   Violent Cop
公開   1989年
上映時間 103分
製作国  日本

監督   北野武
脚本   野沢尚

出演   ビートたけし
     白竜
     川上麻衣子


あらすじ
 刑事である我妻諒介は、時には暴力を辞さない捜査方法と粗暴な性格から、署内でも同僚たちに敬遠されていた。そんなある日、港で麻薬売人の惨殺死体が発見される。我妻は新人の菊地を引き連れ事件の捜査を開始し、覚醒剤を密売する組織の存在をつきとめた。だがその中で我妻は、あってはならない驚愕の事実にも辿り着いてしまうのだった。





評価:4.5点(5点中)


レビュー
 言わずと知れた北野武の監督デビュー作である。彼の映画の特色である、静かながらも見る者に衝撃を与える暴力描写はこの時から健在である。だがそれ以上に「その男、凶暴につき」が痛ましいのは、その救いようのない物語が醸し出す悲哀にあるのだ。

 物語はホームレス狩りをする少年たちのシーンから始まる。一見、大筋に関係の無さそうなこのエピソードだけで、北野監督は我妻という刑事の人物像を観客に伝えている。何しろ、一人の少年の家に押し入り、部屋でボコボコにするのだから。冒頭にこういった衝撃的なシーンを持ってくることで、我妻が危険人物であることを周知させ、緊張感が彼の出演シーンに常に付きまとうことが、この映画の重要なポイントとなるのだ。
 実際、我妻は毎回誰かを(強弱の違いはあれど)殴ったり蹴ったりしている。はっきり言って友達はおろか、同僚にも居て欲しくない類の人間ではあるが、それでいて不愉快な感情を抱かないで済むのは監督自身の演技力によるものだろう。ビートたけしという芸人が持つ皮肉ぶったユーモアを活かし、張り詰めた空気の中にも笑みをこぼさずにはいられないようなシーンを盛り込んでいる。このおかげで我妻への感情移入を可能にし、多くは語られない彼のバックグラウンドから、垣間見える悲しみを観客と共有している。とはいえ、それもまた冷酷な暴力描写を際立たせるための材料の一つでもあるのだが。

 先ほど述べた北野武を筆頭に、俳優陣の演技もまた素晴らしい。あれやこれやと書き立てる必要はないが、やはり敵役の白竜は格段の不気味さを伴っている。「ダーティハリー」のスコルピオや「ブレードランナー」のバッティなどのいわゆるサイコパスに通じる点を多く持ち合わせているが、大きく違うのは妙に人間らしいところだろう。雇い主の仁藤には一切逆らわず、我妻にボコボコにされる時もほとんど抵抗しない(というよりできない)。ラブホテルでのガサ入れのシーンもまた、彼の生活感を見て取れる。だが彼もまた、我妻と同様にそういった場面が、突然起こる狂気をはらんだ暴力シーンを際立たせる結果となった。

 もちろん欠点がないわけではない。事件のプロットそのものは決して緻密なものではなく、勢いで乗り切ってしまっている粗削り感は否めない。無駄なセリフを限りなく削ぎ落とすスタイルはとても好きだ(事実、監督の作品の最も根幹とも言える部分である)が、我妻の妹に関してはマイナス面もある。確かに彼女の「病気」や彼らの関係性についてほとんど描かれないことで、感情面の表現はその余韻も相まってはるかに豊かになった。しかしストーリーの構成上、彼女の行動に不可解な部分が出てしまっている。それを「病気」だから、の一言で片付けてしまうのは如何なものか。

 とはいえ、凶暴な男である我妻の最後に残した優しさが妹に注がれていることは、言葉で表さずとも簡単に見て取れる。序盤の退院した妹とともに祭りに出かけるシーンだけで、我妻にとって妹がどれだけ大切なのかもはっきりと理解できる。
 結局のところ我妻の行動は何の影響も及ぼしていないのだ。しかし重要なのはそこではない。最愛の妹に手を出した悪漢を自分の手で殺し、妹を救う。ある意味でこれは達成されたのだ。そして我妻にとってはこれこそが重要なのである。だからこそ、あのラストシーンはあまりにも悲しい。愛情というものがなんたるかを知る者だけが描ける究極の結末だろう。

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2014/04/26 (Sat) キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー (映画館で鑑賞)

キャプテン・アメリカ ウィンター・ソルジャー

原題   Captain America: The Winter Soldier
上映時間 136分
製作国  アメリカ

監督   アンソニー・ルッソ/ジョー・ルッソ
製作   ケヴィン・フェイグ
脚本   クリストファー・マルクス/スティーヴン・マクフィーリー
原作   ジョー・サイモン/ジャック・カービー

出演   クリス・エヴァンス
     スカーレット・ヨハンソン
     セバスチャン・スタン

あらすじ
 ブラック・ウィドウやニック・フューリーらとともに、国際平和維持組織「S.H.I.E.L.D.(シールド)」の一員として任務の数々にあたっていたキャプテン・アメリカは、仲間であるはずのシールドから襲撃され、誰が本当の敵なのかわからないまま逃亡者となる。そんなキャプテン・アメリカを最強の暗殺者ウィンター・ソルジャーが追いつめるが…





評価:4.5点


レビュー
 待ちに待ったキャプテン・アメリカの続編作。先日見た「マイティ・ソー/ダーク・ワールド」は期待はずれだったが、キャップは素晴らしい結果を残してくれた。

 さて、そもそも「ウィンター・ソルジャー」はエド・ブルベイカーによる比較的新しいキャップのエピソードであり、発売当初は賛否両論だったらしい。だがその見事なストーリー構成や、現代風の味付けがなされても暗くなりすぎないキャップ像、そして後々のマーベル・ストーリーラインにおいて重要な展開であったことから、結果的には名作の一つに数えられている(私の主観も入っているが)。
 
 今回の映画はベースはそのコミック版「ウィンター・ソルジャー」であるが、内容は全く違う。むしろエッセンスだけ残されているぐらいのものだ。それでいて映画だけの魅力が感じられるのも今作の評価ポイントであろう。
 例えば、キャップとシールドの確執なども「ほどほど」になっている。原作ではくどすぎるくらい強調されるので、私はこちらの方が好みである。その他にもニック・フューリーの件など、原作を生かしつつ上手に調理ができていると感じられる場面が多かった。一つ一つ上げるとキリが無いので、ぜひとも原作版を読んでほしい。

 では、一つの映画として見るとどうなのか。結論から言うと、個々最近のアクションではピカイチの出来だ。
 前作のようにノホホンとした展開や、時代錯誤なキャラクターが取り除かれ、舞台が現代に移ったことで全体の締まりがぐっと良くなった。
 さらにメインキャストの多くも、以前よりキャラクターになり切れているように思えた。さらには自信の新たな側面を見いだすことにも成功している。スカーレット・ヨハンソンが良い例だ。「アイアンマン2」の頃の彼女は所詮添え物に過ぎなかったが、今回は本来の魅力を遺憾なく発揮している(脚本のおかげもあるだろう)。サミュエル・L・ジャクソンのニック・フューリーもグッと人間味が増した。前半は彼に見せ場が多いことも見所の一つだろう。

 そして何と言っても、クリス・エヴァンスのキャップ。ファンタスティック・フォーの馬鹿げた役回りとは大きく違う。周りの友達のほとんどが亡くなり、愛する人も今では自分の祖母と同世代。そんな彼が自分の信じるものを探そうとするからこそ、ウィンター・ソルジャーとの邂逅は悲しみに満ちている。もちろん、アクションも満載だが。

 今回は小ネタも上手く機能している。エンドロール後も次回作への期待を煽るのにばっちりだ。
 「キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー」が「アイアンマン」以来のマーベルの単独ヒーロー作品であることは間違いない。

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2013/04/19 (Fri) JUNO/ジュノ(家で鑑賞)

ジュノ

原題   Juno
公開   2007年
上映時間 96分
製作   カナダ/アメリカ

監督   ジェイソン・ライトマン
製作   ジョン・マルコヴィッチ/リアンヌ・ハルフォン/メイソン・ノヴィック/ラッセル・スミス
脚本   ディアブロ・コーディ

出演   エレン・ペイジ     ···ジュノ
     マイケル・セラ     ···ポーリー
     ジェニファー・ガーナー ···ヴァネッサ


あらすじ
 16歳の女子高生ジュノは同じクラスのポーリーと関係を持ち、予定外の妊娠をしてしまう。初めは中絶を考えたものの、結局彼女は生むことを決意する。生まれてくる赤ちゃんに完璧な両親を見つけようとするジュノは、養子を望むローリング夫妻を見つけるが……。





評価:4.5点(5点中)


レビュー
 ジェイソン・ライトマンの監督作で僕が唯一見ていないのがこの「JUNO/ジュノ」であった。彼の持ち味である皮肉ぶった語り口と、コメディでありながらしんみりと感動させる不思議な作風。その中でも最高の評価を受けたこの作品には当然期待がかかる。

 この映画は始まった時点で人を惹き付ける。ロトスコープで制作された独特のオープニングは、バックの軽快な曲も相まって非常に印象的だ。そして会話のシーンも初めからまったく容赦しない。登場人物たちはかなりストレートなジョークをぶちまけるのだが、これがなかなか笑わせてくれる。イヤな感じを微塵も受けないところが好印象だ。

 だがそういったシーンもチャーミングな役者たちの力によるものだ。その代表格は何と言ってもエレン・ペイジ演じるジュノ。ロック(というかパンク)が好きな彼女は大人っぽい部分と子供っぽい部分を両方持っている。妙にひねた台詞が多い中で、本心をさらけ出す場面があると何とも心を打たれる。
 
 彼女の周囲の人間も、一癖も二癖もある人物ばかり。マイケル・セラはあの「イケてない」感じで笑いを誘う。それでも、いわゆるコミック的なコテコテのキャラクターにはならない所が彼のすごさだろう。ジュノの父親を演じたJ・K・シモンズもスパイダーマンの時ほどは活躍しないが、相変わらず切れ味のある台詞回しを披露する。
 
 そして「最高の夫婦」役のジェニファー・ガーナーとジェイソン・ベイトマンがなかなか曲者だ。妻のヴァネッサは子供ができないせいでかなり神経質になっている。過剰とも言える反応だが、彼女の思いを丁寧に描くことで見ている側もその行動を自然と受け止めることができる。反対に夫のマークは自由人でジュノとの相性もばっちり。それでいて「完璧な人」では無い所がミソなのだ。物語のリアリティを高める上で彼の存在は重要な要素だ。

 これらすべてをまとめあげるのが、最高の脚本だ。軽妙で不自然な所が一切無い会話の応酬、「10代の妊娠」というシリアスなテーマ。そして決して100%ではない、少しビターでリアルなエンディング。すべてが見事にマッチしていてどれもが忘れがたい。魅力的なコメディ映画とはまさにこのことだ。

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2013/04/02 (Tue) 汚れなき祈り(映画館で鑑賞)

汚れなき祈り

原題   După dealuri(英題:Beyond the Hills)
公開   2012年
上映時間 155分
製作国  ルーマニア

監督   クリスティアン・ムンジウ
脚本   クリスティアン・ムンジウ
原作   タティアナ・ニクレスク・ブラン『Deadly Confession』『Judges' Book』

出演   コスミナ・ストラタン    ···ヴォイキツァ
     クリスティナ・フルトゥル  ···アリーナ
     ヴァレリウ・アンドリウツァ ···司祭


あらすじ
 ドイツに出稼ぎに行っていた身寄りのないアリーナは、同じ孤児院で育ったヴォイキツァに会うため故郷のルーマニアに戻ってくる。しかし、修道院で暮らし、信仰に目覚めたヴォイキツァとは、以前のように心が通わなくなり、アリーナは精神のバランスを崩していく。そしてそれが悪魔の仕業とみなされ、悪魔祓いの儀式が執り行われることになり……。





評価:4.5点(5点中)


レビュー
 2005年にルーマニアで起きた「悪魔祓い」事件について、ジャーナリストが書いたノンフィクションを原案としている。題材が題材だから、異色の作品となることは間違いない。事実、この映画と似た物は思いつかない。

 ほとんどのシーンにおいて、この映画は完璧に近いクオリティを保ち続けている。様々な要素、例えばヴォイキツァとアリーナの友達以上の関係性や修道院の盲目的な考え方、ずさんな病院の体制、など多くを盛り込んでいるにも関わらず、そのすべてを緻密に描くことに成功している。
 ドイツで出稼ぎとして働くアリーナはヴォイキツァも一緒に来るよう誘い続ける。なぜアリーナがルーマニアをそこまで嫌うのか、1人でいるのが嫌ならどうして外国で働くのか。そういったことの明確な理由が明かされることはないが、豊かな感情表現のおかげで不思議と説得力が生まれる。また孤児院で一緒に育ったヴォイキツァに対し、過剰と言える依存を見せる点も理由は分からない。だがあえてバックグラウンドを描かないことで、サスペンスにありがちな説明過多となる語り口を避け、謎めいた雰囲気を残したままにする。これにより、元々不明瞭な点が多い事件の曖昧さを浮き彫りにし、観客の不安を煽ることにも成功している。

 どんなシーンにおいても、どことなく不穏な空気が流れているのは妙にリアルで静閑な描き方が原因だろう。明らかに現代とはミスマッチな存在である“丘の上の修道院”と、そこに住む司祭と修道女。彼らが単調な活動を延々と繰り返している様は、「正教会」というれっきとした宗教であると知らなければ、その厳格さは異様な物に映る。
 そんな場所に現代的な格好をしたアリーナがくれば、バランスを保っていたその狭い世界も急速に崩壊を始める。このように、視覚的にも「現代人にとって」不思議な世界が一層物語を際立たせている。

 とはいえ、日本人にとって馴染みのない“ルーマニア”という国であるから、物珍しい気もするのだろう。しかし表面的にエキセントリックであっても、記憶に残る映画は生まれない。私が考えるに、最もこの映画に貢献しているのは俳優たちだ。
 どの出演者も不自然な点は一つも見せない。精神に異常をきたすアリーナを演じたフルトゥルは、目で演技ができる。ヴォイキツァ以外の人間には一切心を開かず、その瞳に映るのは底なしの悲しみだ。唯一頼れる存在であったそのヴォイキツァですらも、「神」という形のない存在に奪われ、その怒りを修道院の人間にぶつけることになる。
 ストラタンは自分の信念と友情との間で揺れるヴォイキツァを好演。もの静かで穏やかな人物だが、誰よりも冷静に物事を見つめることができる。アリーナをどうにかして“治療”しようとする司祭たちの行動に疑問を抱く様も非常にナチュラルで、彼女の感情の変化が手に取るように分かる。
 そしてある意味で最も異常とも言える修道院の面々。彼らは盲目的に宗教的な行いを信じ込み、大きな問題に直面しても形のない存在にすがろうとする。例えば修道女たちは無知が故に自分たちの行いが、良い結果を生むと信じ込んでいる。だからこそ彼女らが暴れるアリーナを板に縛り付ける場面は目を背けたくなる。仮にアリーナが精神病だったとしたらあまりに時代錯誤で馬鹿げた行動だ。
 そして修道女をまとめる司祭。全面的な信頼を置かれている彼もまた、自分が神の力を借りてアリーナを治療できると信じて疑わない。というよりは、唯一事実に気づいているが、修道女たちの手前見栄を張ることになったのだろう。そういった司祭の行動がヴォイキツァの不信感を生むことになる。

 これらの要素に、精神病院での話や里親のエピソードなどが見事に噛み合わさり、事態が悪化していく様をスムーズに描いている。だが一つだけ、エンディングはあまりにも呆気ない。人間の無意識から生まれる悪意や宗教への盲目的な信仰といった問題を興味深く描いておきながら、最後はただの「異常な事件」として終わらせてしまっている。映画的な面白さを生むために過剰な演出をしろ、というのではない。しかし「汚れなき祈り」はジャーナリズムそのものではない。実際の事件をモチーフに、人間の根底にある感情をもっと掘り下げてほしかった。

 そうはいっても、この映画が一級品であることは疑いようがないだろう。サスペンスとしての面白さを損なわず、芸術映画らしい洗練された演出も兼ね備えている。一度見たら忘れられない、恐るべき秀作だ。

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2013/03/22 (Fri) ジャンゴ 繋がれざる者(映画館で鑑賞)

ジャンゴ 繋がれざる者

原題   Django Unchained
公開   2012年(アメリカ)
上映時間 165分

監督   クエンティン・タランティーノ
製作   ステイシー・シェア/レジナルド・ハドリン/ピラー・サヴォン
脚本   クエンティン・タランティーノ

出演   ジェイミー・フォックス  ···ジャンゴ・フリーマン
     クリストフ・ヴァルツ   ···ドクター・キング・シュルツ
     レオナルド・ディカプリオ ···カルヴィン・J・キャンディ


あらすじ
 南北戦争直前の1858年、アメリカ南部。黒人奴隷として売りに出されたジャンゴは、元歯科医の賞金稼ぎでキング・シュルツと名乗るドイツ人に買われる。差別主義を嫌うシュルツはジャンゴに自由を与え、賞金稼ぎとしての生き方を教える。ジャンゴには生き別れになったブルームヒルダという妻がおり、2人は賞金を稼ぎながら彼女の行方を追うが、やがて残忍な領主として名高いカルヴィン・キャンディのもとにブルームヒルダがいるということがわかり……。





評価:4.5点(5点中)


レビュー
 実はこの映画が映画館で見た、初のタランティーノ作品である。タランティーノが西部劇を撮ると聞いただけでワクワクするのだが、予想を色んな意味で上回る出来であった。

 オープニングからしてタランティーノらしいB級感溢れる演出だ。「続・荒野の用心棒」で用いられたテーマを“Django”繋がりで使用。ロゴの雰囲気も明らかにマカロニ・ウェスタンを意識していて、ファンならば早速引き込まれるはずだ。

 そこからはお約束の展開が待っている。ジャンゴを買うために、キング・シュルツは速攻で奴隷商人を撃ち殺し、2人の旅路が始まるのだ。
 ここからカルヴィンの屋敷に向かうまでの前半のくだりは文句なしの出来栄えである。タランティーノはお得意の「コミカルなバイオレンス」を披露しつつ、お目当ての賞金首を始末していく2人の姿を最高にクールに描く。私が思うにタランティーノは「かっこよさ」を完璧に近い形で理解している。本当にかっこいい奴はどこかしら変なのだ。
 例えば主演のジェイミー・フォックス演じるジャンゴが一番かっこいいのはいつなのか。それは自分の妻に暴力を振るってきた悪人三兄弟に、突飛な服を着たまま復讐をするときだ。袖に隠した銃で相手の胸に穴を空け、決め台詞を言う。ダサいはずなのに、最高にキマっている。

 さらにこの前半部分では殺害シーンが非常に軽い。もちろん良い意味でだ。ここにはタランティーノが偏愛する「殺しの美学」がふんだんに詰め込まれている。綿花畑でキング・シュルツが三兄弟の最後の1人を撃ち殺す場面では、真っ白な綿花に大量の血がほとばしる。残酷だが、この演出はタランティーノと彼が敬愛するバイオレンスアクションの先人たちにしかできない、見事なセンスで飾られた映像だ。

 問題はここからだ。カルヴィンと出会ってからのストーリーは、軽快、というより陰惨なジョークに満ちてくる。
 顕著なのは、カルヴィンが趣味で行う「マンディンゴ・ファイト」である。これは金持ちが自分の奴隷を剣闘士に見立てて、他の奴隷とどちらかが死ぬまで戦わせるという非常に悪趣味なものだ。もちろん史実にはこういった見せ物が行われた記録は無い。つまりタランティーノの創作であるのだが、彼らしくない生臭い演出だ。相手の目をつぶし、金槌で頭蓋骨を叩き割る。これだけ聞くといつもと同じに聞こえるが、爽快感の欠片もなく不快感に満ちている。
 この他にも、脱走した奴隷を生きたまま犬に食わせたりとやりたい放題だ。確かにタランティーノは奴隷制度の生々しさを本気で観客に伝えようとしていた。ある意味でその意図は理解できたが、彼が得意とするのは「罪悪感を伴わない殺人」だ。奴隷制の悲惨さについて、過剰な演出で説教されても逆効果だ。第一、彼の持ち味のスピード感がこれらの場面でかなり失われる。

 さらにタランティーノはこの悲惨な実態を暴くために、好都合なキャラクターを用意した。それがクリストフ・ヴァルツ演じるドクター・キング・シュルツである。彼はドイツ出身の賞金稼ぎだが、「奴隷制度の無い国から来た」というだけで奴隷制度を忌み嫌う。実際はそれが正しいことだろう。おそらく私たちもあの現状を目の当たりにしたら不快感を催すに違いない。だがそれでは彼が命を賭けて、ジャンゴの手助けをする理由にはならない。逆に、得体の知れないドイツ人をジャンゴがあっさり信用する理由にもならない。
 しかしさすがはクリストフ・ヴァルツ。バックグラウンドに欠ける人物でも、彼が演じることで不思議と説得力のあるガンマンに変貌する。そもそも最も「かっこいい」人物を選ぶなら間違いなく彼だ。独特の皮肉ぶった笑い、賞金首となれば(たまに賞金首でなくても)あっさりと殺すそのスタンス。その割には虐げられる奴隷を見たら、何が何でも救おうとする。こういった矛盾した要素を持ち合わせるのに、そのすべてを完璧に統合し、見ている間は一切の疑問を抱かせない。とてつもなく魅力的で素晴らしい役者だ。この映画の空気は全部彼が作っていると言っても過言ではない。

 ジェイミー・フォックスのジャンゴも悪くない。劇中ほとんど笑わないが、彼とヴァルツのコンビそのものはかなり笑える。タランティーノ的には至ってまじめな人間だから、締める所はきちんと締めてくれるし、終盤の乱戦もかなり見応えがある。なにかと披露する決め台詞もダサかっこいい。
 しかしこの映画の重苦しい部分も彼が同時に作り出している。妻に行われた拷問シーンを回想し、怒りに燃えるジャンゴ。その気持ちは大いに分かるが、タランティーノには道徳を述べる力は無い。「キル・ビル」も同じタイプの話だが、あちらは道徳観念をかなぐり捨てていたので、彼の持ち味を存分に生かしたアクションとして成立していた。こちらのストーリーの骨子はしっかりしているのだから、もう少しくだけたキャラクターが主人公でも良かったのでは。

 この2人の正義の味方も良かったが、ベストはディカプリオ演じる残忍なカルヴィン・キャンディだ。彼が放つ残忍なオーラは見る者も黙らせる。こちらを見て、ニタリと笑うだけでどんな人物なのかが一目瞭然だ。金に目がくらみ、偽の商談に騙されている間も、一切の気の弛みを許さない。そんな彼が騙されたと分かったらどうなるか。ディカプリオ渾身の怒り狂う演技は見応え抜群だ。カルヴィン・キャンディが狂気をはらんだブラック・ジョークそのものであることを全身で表現していて、彼が出ている間はクリストフ・ヴァルツでさえ食われている。
 ただアカデミー助演男優賞にはノミネートすらされなかった。これは明らかにモラル的な問題だろう。素晴らしい演技だったが、その役柄は奴隷制度を茶化したものだ。奴隷制度に我慢できなくなり銃を引き抜くクリストフ・ヴァルツを選ぶ方がずっと感じが良い(もちろんヴァルツが素晴らしいのも確かだが)。

 バックに流れる選曲も完璧で、安っぽさをあえて出したカメラワーク(人物の顔に急に寄るカメラなど)もスタイリッシュなシーンとのメリハリが利いていて楽しませてくれる。だが先ほど指摘した重苦しい雰囲気のせいで長丁場に感じることもあるだろう。当然見終わった後はドッと疲れが出てくる。だがタランティーノの今までの映画と同じく、「ジャンゴ」は見たことがあるのに、今までに無い形の新しい映画として成立している。びっくりするほど良くできた娯楽映画の傑作だ。

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